井山 敬介

井山 敬介
【PROFILE】
Keisuke Iyama
1978年 北海道生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。
毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇を飾る。

全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属

井山敬介 公式 WEB
井山敬介 公式 BLOG

エスケーワン

正直、書くことを迷った。ご家族のことを考えたり、いろんなことを考えたけれど、僕が書けるようなことじゃないのかもしれないけれど、書こうと思う。

雪山。
僕たちスキーヤーにとって雪山はとても素敵で寛大なところで、言葉では簡単に表わせないほどすばらしい姿で僕たちを迎えてくれる。 しかし、ときにはとても厳しく、残酷な姿を僕たちの前に見せる。

2010年9月30日、午前4時。

カメラマンの渡辺正和さんから僕の携帯電話に着信があった。トレーニングで疲れていたせいもあり、枕もとにあった携帯電話の着信音にも気がつかないくらい僕は深く眠っていた。 着信があった時間を確認したときには、撮影のお誘いにしては早すぎるし、酔っぱらってこんな時間に電話をかけてくるような人ではないのに、と思った。 何かただごとじゃないことが起こったと、予感が脳裏を走った。 僕は正和さんの携帯に電話をかけ直した。予感が的中してしまった。

「ポンちゃんがね、雪崩に遭っちゃったよ。ヒマラヤのダウラギリで。3日前だってさ」。そのあとすぐに丸山貴雄からも電話があった。

本田大輔は、僕たちスキー仲間に「ポンちゃん」の愛称で親しまれていた男だ。彼との出会いは2006年11月の立山。プロスキーヤーの児玉毅さんに紹介してもらった。 偶然にも同じ歳で、生まれた月まで同じだった。雪山でプロとして活動している同じ歳の大切な仲間。当時の僕はまだ技術選で表彰台に立ったこともなく、まさに駆け出しで、ビッグマウンテンスキーヤーの 児玉毅さんや佐々木大輔さん、山木匡浩さんに「一緒に滑ってください!」とよくお願いをしていた頃だった。

実は初めてビッグマウンテンスキーヤーに「何かやろうよ!同じ歳だし」と誘ってもらったのが、ポンちゃんだった。 何か、ただ純粋に、すごくうれしかったのを今でもはっきりと憶えている。

僕たちデモンストレーターの先輩には、山田卓也さんや柏木義之さんという世代のプロスキーヤーがおり、現在の技術選シーンを牽引している。
また、バックカントリースキーの世界にも、児玉毅さんや山木匡浩さん、佐々木大輔さんというスキーヤーたちがいて、そのシーンを牽引している。 僕や貴雄が先輩たちと一緒にがんばっているように、ポンちゃんも先輩たちと一緒に全力でがんばっていた。 そんな関係もあって、僕たち(ポンちゃん、貴雄、僕)は、同じ世代同士、意気投合したのかもしれない。

ポンちゃんは、ここには書ききれないほど情熱いっぱいで誰よりも雪山とスキーを愛していた。酒を飲みながら熱く語っていたことがつい最近のように感じる。 貴雄とポンちゃんと3人で話をしているときなどは、「俺たちの世代で何かやろうぜ!」というのが合言葉のようになっていた。僕たちデモンストレーターとの撮影にも積極的に参加してくれた。 バックカントリーでの撮影ではガイドもしてくれた。プライベートでも一緒にスキーを楽しんだ。ポンちゃんが北海道に来たときにはかならず連絡をくれて、やっぱり酒を酌み交わした。 朝方近くまで僕たちが知らない雪山のすばらしさを話してくれた。

先日ヒマラヤで、ポンちゃんは遺体で発見された。

僕は登山家でもビッグマウンテンスキーヤーでもないので、同地のような大きな山の事情は正直計り知れない。 だけど、ポンちゃんの山に向かう姿勢は僕なりにわかっているつもりだ。

ちょっと先に天国へ旅立った、親友。いや戦友。

きっとポンちゃんはもうすでに向こうでも最高の雪山を夢中で楽しんでいることだろう。 そっちの雪山はどうだい? と聞いてみたいけれど、また会ったときまでの楽しみに取っておこう。 話すのが上手なポンちゃんのことだから、酒を飲みながらまた朝方近くまで話をしてくれるだろう。また一緒に滑れるその日まで。滑り終わったら、また朝まで酒を飲んでバカをやろう。
しばらく会えないけれど、また会えるそのときのために、僕はこっちの雪山を全力で楽しむ。 「こんなこともあったぞ、あんなこともあったぞ!」と酒を飲みながらポンちゃんに教えてやろう。 ポンちゃんに自慢できる映像や写真もこれから残していこう。そしてもちろん「技術選でまた優勝できたぞ」と言えるように、全力でがんばろうと決めた。

僕は現在この原稿を遠征先のオーストリアで書いている。
先日、無事に初滑りを終えた夜、ポンちゃんと一緒に滑っている夢を見た。
ふたりで真っ白な雪山を滑っていた。

僕らは相変わらず楽しんでいた。

夢のなかだったけれど、ポンちゃんは相変わらず良い表情で、全力で滑っていた。




● 記事提供=月刊スキージャーナル

井山敬介「神様がくれた雪山に感謝!」vol.18 いつか一緒に滑れるその日まで
SKI journal 2010年12月号掲載
スキーヤーのためのスキー総合情報サイト 「スキーチャンネル」

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