井山 敬介

井山 敬介
【PROFILE】
Keisuke Iyama
1978年 北海道生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。
毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇を飾る。

全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属

井山敬介 公式 WEB
井山敬介 公式 BLOG

エスケーワン

大学生のとき、中国語の先生に「家の玄関は大切な場所です。福が入ってくるところだからいつもキレイにしていてください。そして玄関には赤いものがあると良いですから、これを玄関に貼ってください」と言って、赤い札をもらったことがある。
赤い色と玄関はきれいにしておくことというのは風水の関係だと先生は言っていた。わが家の玄関はいつもキレイにしている。

スキー場へ友人と滑りに行ったときのことだった。年末ということもあり駐車場にはたくさんの車が止まっていた。警備員の人も寒いなか忙しそうに車を誘導していた。
そんななか車を止めると、ひとりの警備員の人がやってきて、止め方についてものすごく乱暴な言葉づかいで、運転していた僕の友人に向かって注意してきた。注意というよりはイライラをその友人にぶつけているようにも感じられた。だが、そんな言われ方をされるほど、車の止め方はひどくなかったように僕には思えた。

僕は言い返してやろうかと思ったが、友人が「すみません」とその警備員の人に言い車を動かしたので、喉のところまできていた声をそのまま飲み込んだ。残念ながらリゾート地のかけらもないなと僕はため息をついてしまった。

僕はスキー場という場所が大好きだ。
愛している、と言っても過言ではない。
その愛するスキー場の玄関とも言える駐車場で、あろうことか汚い言葉を浴びせられたものだからショックで仕方がなかった。そんな気分でスキーなんかやっていられない。上がっていたテンションはものすごい勢いで落ちてしまった。その警備員の人がどんな気持ちで言ったのかはわからないが、少なくとも人を出迎える気持ちはなかったように思えた。

リゾート地だから大勢の人が来るのが当たり前という時代はもう終わったと言われている厳しいこの世の中では、ある意味めずらしくて貴重な存在かもしれない。それぐらい腹が立った。駐車場に車を止めさせてやる、リフトに乗せてやる、レンタルのスキー道具を貸してやる、スキーを教えてやる、食事をさせてやる」。
スノースポーツ業界が低迷しているこのご時世では、こういった姿勢はもうすでになくなっているはずだと思っていた。スキー場を盛り上げて行こうと「スノースポーツミーティング」やさまざまな機会をとおしてスキー場の方たちとお話をさせていただいているが、まだまだ現場までには行き届いていないのかもしれない、というか届いていないと思った。

こういった実態を少しでもなくしていきたいと強く思う。スキーヤーを増やそうとか、スノースポーツを盛り上げようなど、いろいろなことをやっているが、現在スノースポーツを楽しんでいる方たちは非常に大切な存在だ。
新しく始める人を増やすことやスノースポーツを休んでいる人を呼び戻すことも、もちろん大切なことではあるが、楽しい場所をもっと楽しくしていき、現在楽しんでいるスキーヤーやスノーボーダーの人たちをどう楽しませることができるか、ということも重要なのではないだろうか。

スキー場の玄関である駐車場で、正装した警備員に「ありがとうございます! お客様ようこそいらっしゃいました!」というような対応を望んでいるわけではない。少なくともお客様に対する言葉づかいくらいはしっかりしてほしいものだ。

いくら雪質が良くても、コースがおもしろくても、レストランの食事が美味しくても、出だしからこんなのでは満足にスキーを楽しめないじゃないか! と怒りが頂点に達してしまった僕は、友人が制止するのを振り切り、車から飛び出して先ほどの警備員のいるほうへ走っていった。
そして思いっきり「言葉づかいに気をつけろ!」と怒鳴りつけた。すると、いきなりその警備員が僕に殴りかかってきた。思わず転んでしまった僕の上に馬乗りになり、ものすごい勢いで殴りかかってくる警備員。僕は必死に殴り返そうとするが両腕が鉛のように重くて動かない。しかし、なぜか不思議と痛みは感じない。ちくしょう!

そのとき……携帯電話が鳴った。
鳴っているのはいつもの着信音ではなく、アラーム音だ。僕は目が覚めた。スキー場の駐車場ではなく、わが家のベッドの上で。身体の上では息子が早く起きろと馬乗りになって暴れている。僕は夢を見ていたのだ。夢で良かったと思った。

寝る前に久しぶりに行く友人とのスキーが楽しみで仕方がなかった。その日、約束どおりに友人が迎えに来てくれてスキー場に向かった。年末ということもあり駐車場にはたくさんの車が止まっていた。警備員の人も寒いなか忙しそうに車を誘導している。

どこかで見た風景と似ていたが、警備員の人の対応はいつもと変わらずすばらしかった。



● 記事提供=月刊スキージャーナル

井山敬介「神様がくれた雪山に感謝!」vol.14 玄関はいつもキレイに
SKI journal 2010年3月号掲載
スキーヤーのためのスキー総合情報サイト 「スキーチャンネル」

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